介護現場で「痰の吸引」や「経管栄養」の対応が必要になる場面は増えています。しかし、介護職員がこれらの医療的ケアを行うには、喀痰吸引等研修を修了する必要があります。「どんな研修なの?」「費用はいくらかかる?」「期間はどのくらい?」と疑問に思っている方は多いのではないでしょうか。
喀痰吸引等研修は、介護職員が安全に喀痰吸引と経管栄養を実施できるようになるための研修です。3つの類型(第1号・第2号・第3号)があり、対応できる行為の範囲や受講対象者が異なります。費用は5万〜20万円程度、期間は類型によって数日〜数ヶ月と幅があります。
この記事では、喀痰吸引等研修の3つの類型の違い、費用と期間の目安、受講の流れ、研修修了後にできることまで、詳しく解説していきます。
喀痰吸引等研修とは
喀痰吸引等研修は、2012年の介護保険法改正によって創設された研修制度です。それまで介護職員には認められていなかった喀痰吸引(痰の吸引)と経管栄養(チューブを通じた栄養補給)を、一定の条件のもとで実施できるようにするためのものです。
高齢者施設や在宅介護の現場では、嚥下機能の低下により自力で痰を出せない方や、口から食事が取れず経管栄養が必要な方が増えています。以前はこれらの処置は看護師しか行えず、介護現場では「看護師が不在のときに対応できない」という問題がありました。
この研修を修了し、都道府県に登録することで、介護職員も法的に認められた範囲で医療的ケアを行えるようになります。
- 介護職員が喀痰吸引・経管栄養を行うための公的研修
- 2012年の法改正で創設された制度
- 研修修了後、都道府県への登録が必要
- 3つの類型(第1号・第2号・第3号)がある
- 登録特定行為事業者での実施が前提
3つの研修類型の違い
喀痰吸引等研修には3つの類型があり、それぞれ対応できる行為の範囲や対象者が異なります。この違いを正しく理解して、自分に合った研修を選ぶことが大切です。
第1号研修:すべての行為に対応
第1号研修は、喀痰吸引と経管栄養のすべての行為を不特定多数の利用者に実施できる研修です。最も対応範囲が広く、施設や事業所でフルに活躍したい方向けです。
対応できる行為:
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
第2号研修:一部の行為に対応
第2号研修は、上記5つの行為のうち、必要な行為のみを選択して受講できる研修です。たとえば「口腔内の喀痰吸引と胃ろうの経管栄養だけ対応できればいい」という場合は、その2つだけを選んで受講します。不特定多数の利用者に対応可能です。
第3号研修:特定の利用者に限定
第3号研修は、特定の利用者に対してのみ医療的ケアを行うための研修です。在宅の重度障害者や、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病患者のケアを担当するヘルパーが主な対象です。特定の利用者の状態に合わせた実地研修を行うため、研修期間が短いのが特徴です。
| 項目 | 第1号研修 | 第2号研修 | 第3号研修 |
|---|---|---|---|
| 対応行為 | 全5行為 | 選択した行為のみ | 特定の利用者のみ |
| 対象の利用者 | 不特定多数 | 不特定多数 | 特定の1名 |
| 主な受講対象 | 施設の介護職員 | 施設の介護職員 | 在宅のヘルパー |
| 基本研修の時間 | 50時間 | 50時間 | 8〜9時間 |

研修の費用
喀痰吸引等研修の費用は、類型と研修実施機関によって異なります。おおまかな目安は以下の通りです。
| 類型 | 費用の目安 |
|---|---|
| 第1号研修 | 15万〜20万円 |
| 第2号研修 | 10万〜15万円(選択する行為数による) |
| 第3号研修 | 3万〜5万円 |
費用には、基本研修(講義・演習)の受講料、テキスト代、実地研修にかかる費用などが含まれます。都道府県や市区町村が実施する研修は比較的安く、民間の研修機関は高めの傾向があります。なお、関連する情報の詳細は以下の記事でまとめています。

費用を抑える方法
- 事業所の負担:多くの介護事業所では、職員の喀痰吸引等研修の費用を事業所が負担しています。まずは勤務先に確認してみてください
- 都道府県の研修を選ぶ:各都道府県が実施・委託する研修は費用が抑えめです
- 実務者研修の医療的ケア科目の免除:実務者研修で医療的ケアの講義を受けている場合、基本研修の一部が免除される可能性があります
研修の期間とスケジュール
研修期間は類型と実施機関によって異なりますが、大まかな目安は以下の通りです。
第1号・第2号研修の期間
第1号・第2号研修は、基本研修(講義50時間+演習)と実地研修で構成されています。
- 基本研修(講義):50時間。座学で医療的ケアの知識を学ぶ。おおむね7〜9日間
- 基本研修(演習):シミュレーター(人形)を使った実技演習。各行為につき規定回数の合格が必要
- 実地研修:実際の利用者に対して、医師・看護師の指導のもとで医療的ケアを実施。各行為につき規定回数の実施が必要
基本研修は連日開催で約2週間、実地研修は勤務先の施設で行うため1〜3ヶ月程度かかるのが一般的です。トータルでは2〜4ヶ月程度を見込んでおくと良いでしょう。
第3号研修の期間
第3号研修は基本研修が8〜9時間と短く、実地研修も特定の利用者1名に対して行うため、1〜2日の講義+数回の実地研修で修了できます。最短で1〜2週間程度です。


研修修了後の手続き
研修を修了しただけでは、すぐに喀痰吸引や経管栄養を実施することはできません。修了後にいくつかの手続きが必要です。
1. 認定特定行為業務従事者の認定申請
研修修了証明書を添えて、都道府県に「認定特定行為業務従事者」の認定申請を行います。認定を受けると、認定証が交付されます。
2. 登録特定行為事業者の登録
介護職員が医療的ケアを行うためには、勤務先の事業所が「登録特定行為事業者」として都道府県に登録されている必要があります。事業所側の手続きですが、確認しておきましょう。
3. 医師の指示書・看護師との連携体制の確認
実際に医療的ケアを行う際は、医師の指示書に基づき、看護師との連携体制のもとで実施します。勤務先でこの体制が整っているかを確認してください。なお、関連する情報については以下の記事もあわせてご覧ください。



研修を修了しても、医師の指示がなければ喀痰吸引や経管栄養を行うことはできません。また、登録特定行為事業者ではない事業所で実施することも認められていません。手続きを省略すると法律違反になるため、必ず正規の手順を踏んでください。
実務者研修との関係
介護福祉士実務者研修にも「医療的ケア」の科目がありますが、実務者研修だけでは喀痰吸引等を実施する資格は得られません。
実務者研修の医療的ケア科目では、喀痰吸引と経管栄養の基礎知識と演習を学びますが、実地研修は含まれていません。実際に医療的ケアを行うためには、別途喀痰吸引等研修の実地研修を修了する必要があります。
ただし、実務者研修で医療的ケアの講義を受けている場合、喀痰吸引等研修の基本研修(講義部分)が免除されるケースがあります。これは研修実施機関によって対応が異なるため、事前に確認してください。
介護福祉士との関係
介護福祉士の資格を持っている場合も、別途「実地研修」を修了しなければ医療的ケアは行えません。介護福祉士の養成カリキュラムには医療的ケアの講義・演習が含まれていますが、実地研修は含まれていないためです。詳しくは社会福祉振興・試験センターのサイトで確認できます。


喀痰吸引等研修を受けるメリット
対応できる利用者の幅が広がる
医療的ケアが必要な利用者さんにも対応できるようになるため、介護職としての守備範囲が大幅に広がります。特に特養や老健、訪問介護の現場では、喀痰吸引ができる介護職員は非常に重宝される存在です。
転職・就職で有利になる
医療的ケアのニーズは年々高まっており、喀痰吸引等研修を修了している介護職員を求める事業所は増加傾向にあります。転職時にこの研修修了歴があると、採用で大きなアドバンテージになります。
看護師との連携がスムーズになる
研修を通じて医療の知識が深まることで、看護師とのコミュニケーションがスムーズになります。利用者さんの状態変化を適切に報告できるようになり、チームケアの質が向上します。
利用者さんの安心につながる
「介護職員にも医療的ケアをしてもらえる」ということは、利用者さんやご家族にとっても大きな安心材料です。夜間や看護師不在時にも適切な対応ができる体制は、施設全体の信頼性を高めます。なお、関連する情報について詳しくは以下の記事で解説しています。



よくある質問(Q&A)
Q. 無資格でも喀痰吸引等研修を受けられますか?
受講資格に特定の資格要件はなく、介護職員であれば無資格でも受講できます。ただし、研修実施機関によっては「介護事業所に勤務していること」を条件にしている場合があるため、申し込み前に確認してください。
Q. 研修は難しいですか?
基本研修の講義は医療用語が多く、最初は戸惑う方もいます。しかし、テキストに沿って丁寧に教えてもらえるため、真面目に受講していれば理解できる内容です。演習では繰り返し練習する機会があり、実地研修も看護師のサポートがつくので安心してください。
Q. 第1号と第2号、どちらを受けるべきですか?
施設で幅広く対応したいなら第1号、特定の行為だけでよいなら第2号がおすすめです。ただし、将来的にすべての行為に対応する可能性があるなら、最初から第1号で受けておくほうが効率的です。後から追加の行為を習得するには、改めて研修を受ける必要があります。
Q. 研修修了後も更新は必要ですか?
認定特定行為業務従事者の認定に有効期限はないため、更新手続きは不要です。ただし、安全に医療的ケアを継続するために、事業所内での定期的なフォローアップ研修は受けることが推奨されています。厚生労働省の介護分野のページでも関連情報を確認できます。
Q. どこで研修を受けられますか?
各都道府県が指定する登録研修機関で受講できます。都道府県のホームページに登録研修機関の一覧が掲載されているので、お住まいまたは勤務地の都道府県のサイトを確認してください。また、WAM NET(福祉医療機構)でも情報を検索できます。


まとめ
喀痰吸引等研修は、介護職員が医療的ケア(喀痰吸引・経管栄養)を安全に実施するための必須研修です。3つの類型があり、施設で幅広く対応したいなら第1号・第2号、在宅で特定の利用者を担当するなら第3号を選びます。
費用は3万〜20万円、期間は第3号なら1〜2週間、第1号・第2号なら2〜4ヶ月程度が目安です。事業所が費用を負担してくれるケースも多いので、まずは勤務先に相談してみることをおすすめします。
高齢化の進行とともに、医療的ケアが必要な利用者さんは今後さらに増えていきます。喀痰吸引等研修を修了することは、介護職としての価値を高め、利用者さんにより質の高いケアを届けるための大きな一歩になります。


