褥瘡(じょくそう)、いわゆる「床ずれ」は、寝たきりや長時間同じ姿勢を続けることで皮膚や皮下組織が圧迫されて損傷する状態を指す。一度発生すると治りにくく、利用者に大きな苦痛を与えるだけでなく、感染症のリスクも高まる。
だからこそ、褥瘡は「できてから対応する」のではなく、「できないように予防する」ことが最も重要だ。この記事では、褥瘡が発生するメカニズムから、介護職員が日々実践できる予防策・ケア方法まで、わかりやすく解説する。

褥瘡(床ずれ)が発生するメカニズム
褥瘡は、骨が突き出ている部分に体重がかかり続けることで、その部分の血流が遮断されて起こる。血流が止まると皮膚や筋肉に酸素と栄養が届かなくなり、組織が壊死してしまうのだ。
褥瘡が発生しやすい部位
褥瘡ができやすい部位は体位によって異なる。
- 仰臥位(仰向け):後頭部・肩甲骨・仙骨部・かかと
- 側臥位(横向き):耳・肩・肘・大転子部(腰の横の出っ張り)・くるぶし
- 座位(車いす):坐骨部・尾骨部・肩甲骨
最も発生頻度が高いのは仙骨部(お尻の上の骨が出ている部分)で、全褥瘡の約3割を占めるとされている。
褥瘡のリスク因子
以下に該当する利用者は、褥瘡のリスクが高い。
- 自力で寝返りができない(体位変換が困難)
- 低栄養状態(アルブミン値が低い)
- 皮膚が薄く弱い(高齢者の乾燥肌)
- 失禁がある(湿潤環境が皮膚を脆弱にする)
- むくみ(浮腫)がある
- 糖尿病などで末梢循環が悪い
- 車いすに長時間座っている
リスク評価や観察のポイントを体系的に学び直したいときは、介護職・看護職向けの褥瘡ケアの本を1冊手元に置いておくと確認しやすい。

褥瘡の予防対策:体圧管理と体位変換
褥瘡予防の柱となるのが「体圧管理」だ。長時間同じ部位に圧力がかかり続けることを防ぐことが、最も基本的な予防策になる。
体位変換の基本
従来は「2時間ごとの体位変換」が基本ルールとされてきたが、近年では体圧分散マットレスの活用やポジショニングの工夫によって、画一的な2時間ルールにこだわらなくてもよいとする考え方が広がっている。
重要なのは、利用者の状態に合わせて体位変換の間隔を調整することだ。褥瘡リスクの高い方には短い間隔で、体圧分散マットレスを使用している方にはやや長い間隔で対応するなど、個別の判断が求められる。
体位変換のコツ
- 利用者の体を引っ張るのではなく、体の下にスライディングシートを敷いて滑らせるように動かす
- 完全な90度の側臥位ではなく、30度の側臥位(傾斜姿勢)にすると骨突出部への圧が軽減される
- かかとは枕やクッションで挙上し、ベッドとの接触面をなくす
- 体位変換後は背部や臀部にシワがないか確認する(シワも圧の原因になる)
スライディングシートは施設で共用することが多いが、訪問先や在宅介護用に1枚用意しておくと、引きずらずに体の向きを変えやすい。
体圧分散マットレスとクッションの活用
体圧分散用具は褥瘡予防に非常に効果が高い。代表的なものを紹介する。
- エアマットレス:セルが交互に膨張・収縮して圧を分散する。褥瘡リスクの高い方に適している
- ウレタンフォームマットレス:体の形状に合わせて沈み込み、広い面で体重を支える
- 車いす用クッション:坐骨にかかる圧を分散する。エアタイプやジェルタイプがある
円座(ドーナツ型クッション)は、穴の周囲に圧力が集中するため、褥瘡予防には推奨されていない。現在は体圧を広い面で分散するタイプのクッションが主流だ。
車いす用のクッションは形や素材がさまざまなので、座る時間や体格に合わせて選ぶ必要がある。どれが合うかは看護師やリハビリ職にも相談しながら検討しよう。
褥瘡の予防対策:スキンケア
皮膚の状態を良好に保つスキンケアも、褥瘡予防の重要な要素だ。
皮膚の清潔と保湿
高齢者の皮膚は薄く乾燥しやすいため、毎日の保湿ケアが欠かせない。入浴後や清拭後に保湿クリームやローションを塗布して、皮膚のバリア機能を維持しよう。
毎日使うものなので、伸びがよく塗り広げやすい保湿クリームを選んでおくと、ケアの手間が少なくて済む(肌に合うかは少量で確かめてから使おう)。
失禁対策
尿や便による皮膚の湿潤は、褥瘡発生の大きなリスク因子だ。失禁がある方には以下の対策を行う。
- こまめなおむつ交換・陰部洗浄
- 撥水クリーム(バリアクリーム)の塗布で皮膚を保護する
- 吸水性の高いおむつやパッドを選択する
- 皮膚を拭くときはゴシゴシこすらず、押し拭きをする
皮膚観察の習慣化
褥瘡の早期発見には、毎日の皮膚観察が欠かせない。特に入浴介助やおむつ交換、更衣介助のタイミングで、骨突出部の皮膚に発赤がないかをチェックしよう。指で押して白くならない発赤(指押し法で消退しない発赤)は、褥瘡の初期段階(ステージI)の可能性がある。

褥瘡の予防対策:栄養管理
褥瘡の予防と治癒において、栄養管理は非常に重要な役割を果たす。低栄養状態では皮膚の再生力が落ち、褥瘡ができやすく治りにくくなる。
褥瘡予防に重要な栄養素
- たんぱく質:皮膚や筋肉の修復に不可欠。肉・魚・卵・大豆製品から積極的に摂取する
- ビタミンC:コラーゲンの合成を助け、傷の治りを早める
- 亜鉛:細胞の分裂・増殖に関わり、皮膚の再生を促す
- 鉄分:酸素の運搬を担い、組織の修復をサポートする
- 水分:脱水は皮膚の弾力性を低下させるため、十分な水分補給が重要だ
管理栄養士と連携し、利用者の栄養状態を定期的に評価(血清アルブミン値、BMI、食事摂取量など)することで、褥瘡リスクの早期把握と対策が可能になる。
褥瘡ができてしまった場合の対応
予防策を講じていても、褥瘡が発生してしまうことはある。発見したときの対応も押さえておこう。
褥瘡の分類(DESIGNRツール)
日本褥瘡学会が策定した「DESIGN-R」は、褥瘡の重症度を評価するツールだ。深さ(Depth)、浸出液(Exudate)、サイズ(Size)、炎症・感染(Inflammation/Infection)、肉芽組織(Granulation)、壊死組織(Necrotic tissue)、ポケット(Pocket)の7項目を評価し、合計点で重症度を判定する。
介護職員ができること
- 褥瘡を発見したら、すぐに看護師に報告する
- 褥瘡部位への圧迫を避ける体位をとる
- 褥瘡の状態(大きさ・色・浸出液の量など)を観察して記録する
- 医師・看護師の指示に従って処置を補助する
- 栄養摂取量や水分摂取量を記録する
褥瘡の処置(消毒・軟膏塗布・ガーゼ交換など)は医療行為にあたる。介護職員が自己判断で行ってはいけない。看護師の指示のもとで行うこと。
褥瘡予防に関するQ&A
Q1. エアマットレスを使っていれば体位変換は不要?
エアマットレスは体圧を分散する効果があるが、それだけで完全に褥瘡を予防できるわけではない。体位変換の頻度は減らせる可能性があるが、看護師や医師と相談して個別に判断すること。
Q2. 褥瘡のある部位にマッサージしてもいい?
褥瘡がある部位やその周囲へのマッサージは、組織をさらに損傷させる可能性があるため禁忌だ。発赤が見られる段階でも同様に、マッサージは行わないこと。
Q3. 在宅介護での褥瘡予防で家族ができることは?
家族には、体位変換の方法を指導するとともに、適切なマットレスの導入を提案しよう。また、食事内容の見直しやスキンケアの方法を伝えることも大切だ。介護保険を利用すれば、体圧分散マットレスのレンタルも可能だ。
家族が自宅で体の向きを整えるときは、背中や膝の間に挟む体位変換用のクッションがあると姿勢を保ちやすい。

まとめ
褥瘡は、体圧管理・スキンケア・栄養管理の3本柱で予防することができる。「できてしまったら」ではなく、「できないように」日々のケアの中で意識することが何より大切だ。
利用者一人ひとりの褥瘡リスクを正しく評価し、体位変換・マットレス選定・スキンケア・栄養管理を組み合わせた多角的なアプローチで、褥瘡のない快適な生活を支えよう。

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