介護施設で看取りケアに携わることは、介護職にとって大きな責任とプレッシャーを伴う業務です。「利用者の最期にどう寄り添えばいいのか」「自分の対応は合っているのか」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
看取りケアとは、回復の見込みがなく、人生の最終段階にある方に対して、苦痛を和らげ、穏やかな最期を迎えられるよう支援するケアのことです。医療的な処置が中心のターミナルケアとは異なり、看取りケアは日常の延長線上にある生活援助を軸に行われます。
この記事では、介護職として看取りケアに臨む際の心構えと、現場で実践できる具体的な方法を解説します。

看取りケアにおける介護職の心構え
看取りケアに臨む前に、まず介護職としての心構えを整えることが大切です。技術よりも先に「どんな気持ちで向き合うか」を考えておきましょう。
「何もできない」ではなく「まだできることがある」
看取りの段階に入ると、治療による回復は見込めなくなります。しかし、だからといって「もう何もできない」わけではありません。環境を整える、手を握る、声をかける、好きな音楽をかけるなど、介護職だからこそできることはたくさんあります。
利用者の「生きてきた人生」に敬意を持つ
看取りケアでは、利用者のこれまでの人生に敬意を払い、最期まで尊厳を守ることが大切です。ご本人の好きだった食べ物、趣味、大切にしていたものなど、その方の「人となり」を知っておくことで、よりその方らしい最期を支えることができます。
ご家族の気持ちに寄り添う
看取りの場面では、ご家族もまた大きな不安や悲しみの中にいます。ご家族の感情を受け止め、施設での利用者の様子を丁寧に伝えることが求められます。「最期まで穏やかに過ごされていますよ」という言葉が、ご家族にとって大きな支えになることもあります。
自分の感情にも向き合う
看取りケアは介護職にとっても精神的な負担が大きいものです。利用者の死に対して悲しみや無力感を感じるのは自然なことです。自分の感情を否定せず、同僚や上司と共有しながら、心のケアにも気を配りましょう。
看取りケアの心構えで最も大切なのは「その方らしい最期を支える」という姿勢です。積極的な治療はなくても、日々のケアを通じて利用者の安らぎを守ることが介護職の役割です。
初めての看取りを前に不安が大きいときは、看取り介護について書かれた本で、現場の事例や考え方に触れておくのもひとつの方法です。
看取り期に見られる身体的な変化
看取りの段階に入ると、利用者の身体にさまざまな変化が現れます。これらの変化を理解しておくことで、慌てずに対応できるようになります。
食事量・水分摂取量の減少
死期が近づくと、身体が食事や水分を受け付けなくなることがあります。これは自然な身体の反応であり、無理に食べさせたり飲ませたりする必要はありません。ご本人が望む範囲で、少量ずつ提供するようにしましょう。
意識レベルの低下
次第にウトウトする時間が増え、呼びかけへの反応が薄くなっていきます。意識がない状態でも、聴覚は最後まで残ると言われています。穏やかな声で話しかけ続けることは大切なケアのひとつです。
呼吸の変化
呼吸が不規則になったり、一時的に止まったりすることがあります。また、「ゴロゴロ」という音(死前喘鳴)が聞こえることもありますが、これは本人には苦痛がないとされています。呼吸の変化を記録し、看護師に報告しましょう。
体温・血圧の変化
手足が冷たくなり、皮膚の色が変わることがあります。血圧も徐々に低下します。保温に努め、利用者が不快にならないよう環境を整えましょう。

看取りケアの具体的な方法
看取り期における具体的なケアの方法を、領域ごとに解説します。
身体的ケア
看取り期の身体的ケアでは、苦痛の緩和と快適さの維持が最優先です。
- 体位変換:褥瘡(床ずれ)予防のために定期的に行いますが、ご本人が苦痛を感じない範囲で無理なく行います。
- 口腔ケア:食事ができなくなっても口腔ケアは継続します。スポンジブラシで口の中を湿らせるだけでも、乾燥による不快感を和らげることができます。
- 清潔保持:清拭や部分浴で清潔を保ち、身体的な快適さを維持します。
- 保温:手足が冷えてくるため、温かい布団やブランケットで保温します。
- 痛みへの対応:痛みが見られる場合は、看護師や医師に速やかに報告し、適切な対応を依頼します。
口腔ケアで使うスポンジブラシは消耗品なので、施設の備品とは別に規格や使い心地を確認しておくと選ぶときに迷いません。
精神的ケア
看取り期の精神的ケアは、利用者に「ひとりではない」という安心感を伝えることが核心です。
- 穏やかな声で声かけを行う(意識がなくても)
- 手を握る、さする、身体に触れる(タッチケア)
- 利用者が好きだった音楽をかける
- 好きな花を飾るなど、環境を整える
- ご家族の写真を近くに置く
ご家族への支援
看取りケアではご家族への支援も重要な役割です。
- 利用者の状態を定期的に報告する
- 面会時間の柔軟な対応(看取り期は面会時間を延長するなど)
- ご家族が付き添える環境を整える(簡易ベッドの用意など)
- ご家族ができるケア(手を握る、声をかけるなど)を提案する
- 死後の手続きについて、事前に情報提供する
看取り期に利用者の状態が急変した場合は、事前に決められた対応方針(看取り計画)に従って行動しましょう。延命処置の有無などは、事前にご家族・医師と確認しておくことが重要です。

看取りケアの体制づくり
看取りケアを適切に行うためには、個人の努力だけでなく、組織としての体制づくりが欠かせません。
多職種連携の重要性
看取りケアは介護職だけで行うものではありません。医師、看護師、ケアマネジャー、生活相談員などの多職種が連携して、利用者と家族を支える体制を作ることが大切です。
定期的なカンファレンスで、利用者の状態変化や今後の方針を共有し、チーム全体で統一したケアを行いましょう。
看取りケアプランの作成
看取り期に入った時点で、看取りケアプランを作成します。プランには以下の内容を含めます。
- ご本人・ご家族の意思確認(延命処置の希望など)
- 具体的なケアの方針
- 急変時の連絡体制
- 夜間の対応方針
- ご家族への連絡タイミング
スタッフのメンタルケア
看取りを経験した後、スタッフが精神的なダメージを受けることは珍しくありません。以下の取り組みでスタッフのメンタルケアを行いましょう。
- デスカンファレンス:看取り後に振り返りの会議を行い、ケアの内容を評価するとともに、スタッフの感情を共有する場を設ける
- 個別の相談対応
- 外部の相談窓口の案内
看取りケアについてさらに深く学びたい方は、全国在宅医療マネジメント協会(公式サイト)で公開されている看取りケアの実践情報が参考になります。また、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(公式ページ)も、看取りケアの方針を考えるうえで重要な資料です。

看取りケアの加算制度
介護施設における看取りケアには、介護報酬の加算が設定されています。施設運営の面からも押さえておきましょう。
看取り介護加算
特別養護老人ホームやグループホームなどで、看取りケアを行った場合に算定できる加算です。加算の要件として、看取りに関する指針の策定、多職種連携、24時間の連絡体制の整備などが求められます。
ターミナルケア加算
訪問介護や介護老人保健施設などで算定できる加算です。死亡日以前の一定期間に提供したケアに対して算定されます。
これらの加算は、施設が看取りケアの体制を整え、質の高い看取りケアを提供するための原資にもなります。加算の要件を理解し、適切に算定することも重要です。
よくある質問(Q&A)
Q. 看取りケアに初めて関わるのですが、怖いです。どうすればいいですか?
初めての看取りケアに不安を感じるのは当然のことです。事前に看取りケアの研修に参加したり、経験のある先輩に相談したりすることで、心の準備ができます。また、一人で担当するのではなく、チームで支える体制の中で経験を積んでいくことが大切です。
研修の前後に、看取り介護の本で先輩たちの体験や言葉に触れておくと、気持ちの準備がしやすくなります。
Q. ご家族が延命を希望しているが、本人は望んでいない場合はどうすればいいですか?
ご本人の意思が最も尊重されるべきですが、ご家族の気持ちにも配慮が必要な繊細な問題です。医師、看護師、ケアマネジャーと連携し、ご家族との話し合いの場を設けて、ご本人の意思をご家族に丁寧に伝えることが求められます。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)として事前に話し合っておくことが望ましいとされています。
Q. 看取り後にスタッフが落ち込んでしまったときはどうケアすればいいですか?
看取り後の悲しみは「グリーフ(悲嘆)」と呼ばれ、自然な感情反応です。デスカンファレンスの場で感情を共有したり、休養を取ったりすることが大切です。症状が長引く場合は、専門家(カウンセラー等)への相談も検討しましょう。
悲しみとの向き合い方を知りたいときは、グリーフケアをテーマにした本を読んでみる人もいます。
まとめ
介護の看取りケアで大切な心構えと方法について、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 「まだできることがある」という姿勢で臨む
- 利用者の人生に敬意を持ち、その方らしい最期を支える
- 看取り期の身体的変化を理解し、慌てずに対応する
- 身体的ケア、精神的ケア、家族支援の3領域を意識する
- 多職種連携で統一したケアを行う
- スタッフ自身のメンタルケアも大切にする
看取りケアは介護職にとって精神的に負担の大きい業務ですが、同時に利用者の人生の最終段階に寄り添える、かけがえのない役割でもあります。チームの力を借りながら、一人ひとりの最期を大切にするケアを実践していきましょう。


