介護の現場では、利用者さんからのセクシャルハラスメント(セクハラ)に悩む職員が少なくありません。入浴介助中に体を触られたり、卑猥な言葉を投げかけられたり。「介護だから仕方ない」と我慢してしまう方も多いですが、それは間違いです。
この記事では、介護現場で起きるセクハラの実態と具体的な対処法、相談先をわかりやすく解説します。自分を守るための知識を身につけましょう。

介護現場で起きるセクハラの実態
介護現場のセクハラは、身体的なものから言葉によるものまでさまざまです。厚生労働省の調査によると、介護職員の約3割がハラスメント被害を経験しているとされ、その中にセクハラも含まれています。どのような行為がセクハラにあたるのかを正しく理解しておくことが大切です。
身体的なセクハラ
入浴介助や排泄介助の際に、利用者さんから意図的に体を触られるケースがあります。手を握られる、胸や臀部を触られる、抱きつかれるなど、身体的な接触を伴うハラスメントです。介助中は利用者さんとの距離が近くなるため、被害に遭いやすい状況が生まれやすいのが実情です。
言葉によるセクハラ
卑猥な冗談を言われる、容姿に対する不適切なコメントをされる、交際を迫られる、性的な質問をされるなど、言葉によるセクハラも深刻です。「冗談のつもり」「褒めたつもり」で言われても、受け手が不快に感じればセクハラです。繰り返されると、出勤すること自体が苦痛になることもあります。
言葉のセクハラは形に残りにくいので、言われたその場で日時や言葉をさっと書き留められるよう、ポケットに入る小さなメモ帳を持ち歩いている介護職の方もいます。
視覚的なセクハラ
わざと体を露出してみせる、卑猥な画像を見せてくるなど、視覚的なセクハラもあります。認知症の影響で悪意なく行われる場合もありますが、職員への心理的な影響は変わりません。
つきまとい型のセクハラ
特定の職員にだけ頻繁にナースコールを押す、居室に来るよう繰り返し求める、必要以上に近距離に寄ってくるなど、ストーカーに近い行動を取るケースもあります。

セクハラを受けたときの対処法
はっきりと拒否の意思を示す
セクハラ行為を受けたら、毅然とした態度で「やめてください」と伝えることが大切です。笑ってごまかしたり、曖昧な態度を取ったりすると、相手は「嫌がっていない」と勘違いする可能性があります。表情も真剣にし、冗談と受け取られない態度で伝えましょう。
その場から離れる
拒否しても行為が止まらない場合は、すぐにその場から離れて安全を確保しましょう。「少しお待ちください」と一言伝えて退室し、同僚を呼んでから戻るのも有効な方法です。自分の身を守ることが最優先です。
上司に報告する
セクハラがあった事実を必ず上司に報告してください。「こんなことで報告していいのかな」と遠慮する方もいますが、どんなに些細だと感じても報告することが重要です。報告がなければ、施設として対策を講じることができません。報告する際は、感情的にならず事実を淡々と伝えるよう心がけましょう。
記録を残す
いつ、どこで、どのような行為があったかを詳細に記録しておきましょう。日時・場所・行為の内容・自分の対応・目撃者の有無を具体的に書き残すことが、今後の対策や法的対応に必要になります。スマートフォンのメモ機能を活用して、その場ですぐ記録するのもおすすめです。
言葉の内容を正確に残しておきたい場合に、小型のICレコーダーを使う方もいます。録音してよいかどうかは施設のルールや利用者さんのプライバシーにも関わるので、使う前に上司へ相談しておくと安心です。
担当変更を依頼する
セクハラが繰り返される利用者さんのケアを、引き続き担当し続ける必要はありません。上司に担当変更を依頼し、同性のスタッフに替えてもらう、複数人で対応するなどの措置を取ってもらいましょう。
- 「やめてください」とはっきり意思表示する
- 行為が止まらなければその場から離れる
- 上司に速やかに報告する
- 日時・場所・内容を記録に残す
- 担当変更や複数人対応を依頼する
施設として取るべき対策
ハラスメント対策方針の策定
施設としてセクハラを含むハラスメント全般に対する方針を明確に策定し、全職員に周知しましょう。利用者さんやその家族にも、入所時にハラスメント行為は許容されないことを説明しておくことが有効です。契約書や重要事項説明書にハラスメント条項を盛り込むのも効果的です。
担当変更・複数人対応の体制整備
セクハラが報告された場合は、速やかに担当者の変更や複数人での対応を検討しましょう。特に入浴介助や排泄介助など、密室でのケアにおける安全確保が重要です。二人体制でのケアが難しい場合は、ドアを開けたまま介助するなどの工夫も有効です。
研修の実施
ハラスメントに関する研修を定期的に実施し、どのような行為がセクハラにあたるのか、被害を受けたときにどう対応すべきかを全職員が理解できるようにしましょう。研修では実際の事例をもとにしたケーススタディを行うと、より実践的な学びになります。
研修の資料づくりや、職員が自分で知識を深めたいときには、介護現場のハラスメント対策をまとめた市販の本を参考にするという手もあります。
カスタマーハラスメント対策の義務化への対応
介護事業所におけるカスタマーハラスメント対策が2026年10月から義務化され、セクハラもその対象に含まれます。運営規程へのハラスメント対策の明記や相談体制の整備が求められています。義務化に伴い、施設としてのマニュアル整備や相談窓口の設置が不可欠です。
利用者の家族との連携
セクハラ行為が見られる利用者さんのご家族に状況を報告し、協力を求めることも有効です。家族と連携することで、利用者さんへの声かけや、ケアプランの見直しにつながることがあります。

相談先一覧
セクハラの被害を受けた場合に相談できる窓口を紹介します。一人で悩まず、専門の相談先を活用してください。
- 施設内の上司・管理者:最初の相談先として、まず施設内で報告・相談を行いましょう
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):職場のセクハラに関する相談を無料で受け付けています(電話相談も可能)
- 総合労働相談コーナー:全国の労働基準監督署内に設置されている相談窓口です。予約不要で利用できます
- 法テラス(日本司法支援センター):法的なトラブルについて無料で相談できます
- 介護現場のハラスメント相談窓口:自治体によっては介護職専門の相談窓口を設けています
- よりそいホットライン(0120-279-338):24時間対応の無料相談窓口です
セクハラ被害による精神的な不調(不眠・不安・気分の落ち込み・フラッシュバックなど)が続く場合は、医療機関やカウンセラーに相談してください。労災保険の適用対象となる可能性もあります。
よくある質問(Q&A)
Q. 認知症の利用者さんからのセクハラも訴えていい?
もちろんです。認知症の症状としてセクハラ行為が現れることはありますが、職員への影響は変わりません。上司に報告し、担当変更やケア方法の見直しを依頼してください。認知症だからといって、職員が我慢する必要はありません。
Q. 男性職員もセクハラ被害にあう?
はい、男性職員がセクハラ被害にあうケースもあります。利用者さんから不適切な発言をされたり、身体的な接触を受けたりすることがあります。性別に関係なく、不快に感じた行為は報告してください。
Q. セクハラが原因で退職を考えている場合は?
まず施設の管理者に相談し、改善を求めましょう。それでも改善されない場合は、転職も選択肢のひとつです。セクハラを放置する施設には長くいる必要はありません。自分の心身を守ることを優先してください。
転職先を探す場合は、職種や施設形態、雇用形態などの条件で求人を比べられるサービスを使う方法があります。介護JJ(介護ジャストジョブ)は、「夜勤なし」「日勤のみ」「ブランクOK」といった働き方の条件も指定して求人を探せるサービスで、公式では求職者は無料で利用できると案内されています。
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Q. セクハラを我慢し続けるとどうなる?
セクハラを我慢し続けると、ストレスの蓄積により心身に深刻な影響が出る可能性があります。不眠、食欲不振、抑うつ、出勤拒否などの症状につながることもあります。早い段階で対処することが、自分を守るために重要です。
セクハラ被害を未然に防ぐための工夫
すべてのセクハラを防ぐことは難しいですが、リスクを軽減するための工夫はあります。
介助時の環境づくり
入浴介助や排泄介助の際には、なるべくカーテンやドアを完全に閉めきらず、他のスタッフがすぐに助けに入れる状態を保ちましょう。利用者さんのプライバシーに配慮しつつ、職員の安全も確保する工夫が大切です。
リスクのある利用者さんの情報共有
過去にセクハラ行為があった利用者さんについては、チーム内で情報を共有し、対応方法を統一しましょう。「Aさんはこういう場面でこういう行為がある」という具体的な情報を引き継ぐことで、新任のスタッフも事前に心構えができます。
アサーティブなコミュニケーション
アサーティブコミュニケーション(相手を尊重しながらも自分の意見を明確に伝える方法)のスキルを身につけると、セクハラ行為に対して毅然と対応しやすくなります。「私はその行為を不快に感じます。やめていただけますか」と、感情を伝えつつ具体的な行動を求める表現が効果的です。
言い方のパターンを事前に知っておくと、いざというときに言葉が出やすくなります。アサーティブコミュニケーションの入門書で例文に目を通しておくのもひとつの方法です。


まとめ
介護現場でのセクハラは、「仕方ない」で済ませてはいけない深刻な問題です。被害を受けたら毅然とした態度で拒否し、上司に報告し、記録を残す。この3つが基本の対応です。
施設としても、ハラスメント対策方針の策定や担当変更の体制整備、研修の実施など、組織的な取り組みが求められます。一人で抱え込まず、頼れる相談先を活用してください。
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