介護の現場で毎日行うバイタルサイン測定。体温・脈拍・血圧・呼吸の4つを数値として記録するだけでなく、その数値が「この利用者にとって正常かどうか」を判断する力が求められる。
でも、「数値を測って記録するだけになっている」「異常値に気づいても、どう対応すればいいかわからない」と感じている介護職員は少なくないだろう。この記事では、バイタルサインの基礎知識から測定方法、現場で活かせる観察ポイントまで、わかりやすく解説する。

バイタルサインとは?4つの基本項目を理解しよう
バイタルサインとは、生命の兆候を示す指標のことだ。介護現場では主に体温・脈拍・血圧・呼吸の4つを測定する。施設によってはSpO2(動脈血酸素飽和度)を加えて5項目を測定するところもある。
体温の基準値と観察ポイント
高齢者の平均体温は、若年者よりやや低い傾向がある。一般的な目安は以下の通りだ。
- 正常範囲:35.5度から37.0度程度
- 微熱:37.0度から37.4度
- 発熱:37.5度以上
- 高熱:38.0度以上
ただし、高齢者は基礎体温が低いため、37.0度でも「この方にとっては発熱」というケースがある。普段の平熱を把握しておくことが重要。
体温測定のポイントとして、腋窩(わきの下)で測る場合は、汗を拭いてから体温計を45度の角度で当て、しっかりわきを閉じてもらうこと。測定時間は電子体温計の予測式で約15秒から30秒程度だが、実測式の場合は10分程度かかる。訪問介護などで自分用の体温計を持ち歩く場合は、予測式か実測式かを確認して選ぶとよい。
脈拍の基準値と観察ポイント
脈拍は心臓の動きを反映する指標だ。
- 正常範囲:60回から100回/分
- 頻脈:100回/分以上(発熱・脱水・貧血・心不全などの可能性)
- 徐脈:60回/分未満(薬の影響・甲状腺機能低下などの可能性)
回数だけでなく、リズムが規則的かどうかも重要な観察ポイントだ。脈が飛んだり不規則だったりする場合は「不整脈」の可能性があり、看護師への報告が必要になる。橈骨動脈(手首の親指側)に人差し指・中指・薬指の3本を当てて15秒間測定し、4倍して1分間の脈拍数を算出する方法が一般的だ。
血圧の基準値と観察ポイント
血圧は心臓から送り出される血液が血管の壁に与える圧力のことだ。
- 正常値の目安:収縮期血圧(上)120mmHg未満 / 拡張期血圧(下)80mmHg未満
- 高血圧:140/90mmHg以上
- 低血圧:90/60mmHg未満
ただし、高齢者は動脈硬化の影響で収縮期血圧が高くなりやすい傾向がある。降圧薬を服用している方も多いため、「いつもの血圧」を基準にして変動を見ることが大切。
測定時は、上腕にカフ(マンシェット)を巻き、心臓の高さに合わせて測定する。食事・入浴・運動の直後は血圧が変動しやすいため、安静にしてから5分以上経過した状態で測るのが基本だ。カフの巻き方を練習したい場合や自宅で測る機会がある場合は、上腕式の家庭用血圧計で手順に慣れておくのも一つの方法だ。
呼吸の基準値と観察ポイント
呼吸は呼吸器・循環器の状態を反映する大切なバイタルサインだ。
- 正常範囲:12回から20回/分
- 頻呼吸:25回以上/分
- 徐呼吸:10回未満/分
呼吸回数だけでなく、以下の点も観察しよう。
- 呼吸のリズムは規則的か
- 胸郭の動きは左右均等か
- 肩で息をしていないか(努力呼吸)
- ゼーゼー・ヒューヒューなどの異常音がないか
- 顔色やチアノーゼ(唇・爪が紫色になる)はないか
呼吸の測定は、利用者に「呼吸を測ります」と伝えると意識してしまい正確な数値が取れないため、脈拍測定に続けて、手首を持ったまま胸の動きを数える方法がよく使われる。脈拍や呼吸を15秒・30秒で数えるときは、胸元で秒針が見やすいナースウォッチがあると測定がスムーズになる。

SpO2(酸素飽和度)の測定と注意点
近年、介護施設でも広く導入されているのがSpO2の測定だ。パルスオキシメーターを指先に装着するだけで、血液中の酸素飽和度を簡単に測定できる。
- 正常値:96%から99%
- 要注意:95%以下
- 危険:90%以下(医療的対応が必要)
測定時の注意点として、マニキュアやジェルネイルを塗っている指では正確に測定できないことがある。また、手が冷えていると末梢血管が収縮して値が低く出ることがあるため、温めてから測定するとよい。
バイタルサイン測定で見逃してはいけない危険なサイン
以下のような場合は、すぐに看護師や医師に連絡する必要がある。
- 収縮期血圧が200mmHg以上、または70mmHg未満
- 脈拍が120回以上、または40回未満
- 体温が39度以上、または34度未満
- SpO2が90%未満
- 呼吸数が30回以上、または8回未満
- 意識レベルの低下(呼びかけへの反応が鈍い)
- 激しい頭痛・胸痛・腹痛の訴え
「普段との違い」を見つけるための観察の心得
バイタルサインの異常は、数値だけでは見つからないことも多い。特に高齢者は、数値に大きな変動がなくても体調が崩れているケースがある。以下のような「いつもとの違い」を敏感にキャッチしよう。
- 食事量がいつもより少ない
- 表情が硬い、元気がない
- 言葉数が少ない、受け答えが遅い
- 寝ている時間が長い
- トイレの回数や尿量が変わった
- 肌の色やツヤがいつもと違う
こうした変化に気づくためには、利用者の「普段の状態」を知っておくことが大前提だ。日頃のコミュニケーションや観察を通じて、一人ひとりの「平常時」を把握しておくことが、異変の早期発見につながる。

バイタルサインの正しい記録方法
測定した値を正確に記録することも重要な業務だ。時系列での推移を把握することで、体調の変化をいち早くキャッチできる。
記録のポイント
- 測定日時を正確に記載する
- 数値だけでなく、測定時の利用者の状態(食事前後、入浴後、安静時など)も記載する
- 特記事項として、顔色・表情・訴えなどの主観的な情報も添える
- 異常値が出た場合は誰に報告したかも記録する
近年はICTを活用した介護記録システムを導入する施設も増えており、タブレットやスマートフォンから簡単にバイタルデータを入力・管理できるようになっている。ただ、測定したその場ですぐ入力できないことも多いため、ポケットサイズのメモ帳に一時的に書き留めておく人も多い。
バイタルサインに関するQ&A
Q1. 血圧が左右で違う場合はどちらを記録する?
左右差がある場合は、数値が高いほうを記録するのが一般的だ。ただし、左右差が20mmHg以上ある場合は、動脈の問題が疑われるため看護師に報告しよう。
Q2. 体温が35度以下の場合はどうすべき?
低体温(35度未満)は甲状腺機能低下、低栄養、敗血症の初期症状などの可能性がある。暖かくして再測定し、それでも低い場合は看護師に報告すること。
Q3. パルスオキシメーターがうまく測れない場合は?
指が冷えている場合は手をこすって温める、マニキュアがある場合は別の指で測定する、爪が変形している場合は耳たぶ用のセンサーを使うなどの方法がある。
まとめ
バイタルサイン測定は、介護の基本であると同時に、利用者の命を守る重要な業務だ。数値を記録するだけでなく、「この利用者にとっての正常値」を理解し、いつもとの違いを見つける観察力を磨いていくことが大切だ。
正しい測定方法を身につけ、記録と報告を徹底することで、異変の早期発見・早期対応につなげていこう。
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