介護施設では高齢の利用者が集団で生活しているため、感染症が発生すると急速に広がるリスクがあります。インフルエンザやノロウイルス、新型コロナウイルスなど、さまざまな感染症から利用者と職員を守るための対策は、介護施設運営の根幹です。
この記事では、介護施設における感染症対策の基本から具体的な予防方法、万が一感染者が発生した場合の対応手順まで、現場ですぐに実践できる内容をわかりやすく解説します。マニュアル作成の参考にもなる構成にしていますので、管理者の方もぜひ活用してください。

介護施設で注意すべき主な感染症
介護施設で特に注意が必要な感染症を把握しておくことが、効果的な対策の第一歩です。
インフルエンザ
毎年冬場に流行するインフルエンザは、高齢者が感染すると重症化しやすいため、介護施設では特に警戒が必要です。飛沫感染と接触感染が主な感染経路で、潜伏期間は1〜3日程度です。
ノロウイルス(感染性胃腸炎)
嘔吐や下痢を引き起こすノロウイルスは、少量のウイルスでも感染するほど感染力が強く、ワクチンがないため予防が何よりも重要です。接触感染や経口感染が主な感染経路で、アルコール消毒では十分な効果が得られない点に注意が必要です。
新型コロナウイルス感染症
コロナ禍以降、介護施設の感染対策は大幅に強化されました。飛沫感染とエアロゾル感染が主な経路であり、換気の重要性が改めて認識されています。
疥癬(かいせん)
ヒゼンダニが皮膚に寄生して強いかゆみを引き起こす感染症で、接触感染で広がります。通常疥癬は直接的な接触で感染しますが、角化型疥癬は感染力が非常に強いため早期発見と隔離が重要です。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌で、免疫力の低い高齢者が感染すると治療が長期化するケースがあります。保菌者への過剰な隔離は不要ですが、傷口の管理や手指衛生の徹底が求められます。

感染症予防の基本|標準予防策(スタンダードプリコーション)
標準予防策とは、すべての利用者に対して感染の有無に関わらず実施する基本的な感染対策のことです。「すべての体液・血液・排泄物には感染性がある」という前提で対応します。
手洗い・手指消毒
感染対策の基本中の基本です。以下のタイミングで必ず実施します。
- 利用者に触れる前
- 清潔操作の前
- 体液に触れた後
- 利用者に触れた後
- 利用者の周辺環境に触れた後
流水と石けんで30秒以上かけて手を洗い、手の甲、指の間、爪の先、親指の付け根、手首まで丁寧に洗うことがポイントです。手洗い後はアルコール消毒液で仕上げます。
施設の備品に加えて、ポケットに入る携帯用のアルコールジェルを持ち歩いている職員もいます。容量や使い心地は商品ごとに違うので、各ショップで確認してみてください。
個人防護具(PPE)の使用
使い捨て手袋、マスク、エプロン(ガウン)、フェイスシールドなどの個人防護具を、場面に応じて適切に着用します。
- 手袋:排泄介助、入浴介助、傷口のケアなど体液に触れる可能性がある場面
- マスク:咳やくしゃみの症状がある利用者の対応時
- エプロン:体液が飛散する可能性がある場面
使い捨て手袋はラテックスアレルギーの心配が少ないニトリル製を選ぶ施設も増えています。サイズ展開や枚数は商品によって異なります。
環境消毒
ドアノブ、手すり、テーブル、リモコンなど、高頻度で接触する場所は定期的に消毒します。消毒剤は通常のアルコール消毒でよいですが、ノロウイルスの場合は次亜塩素酸ナトリウム(塩素系消毒剤)を使用する必要があります。
換気
定期的な換気は飛沫感染やエアロゾル感染の予防に有効です。1時間に2回以上、窓を大きく開けて空気を入れ替えましょう。対角線上の窓を開けると効率的に換気できます。
標準予防策は「特別な感染症が発生したときだけ」ではなく、日常業務の中で常に実践することが重要です。習慣にすることで、いざというときにも慌てず対応できます。
感染症別の具体的な対策方法
インフルエンザ対策
- ワクチン接種:利用者・職員ともに毎年のワクチン接種を推奨
- 早期発見:毎日の検温と体調チェックで発熱者を早期に発見
- 隔離対応:発症者は個室に移動させ、専任の職員が対応
- 面会制限:流行期は面会者にマスク着用と手指消毒を求める
ノロウイルス対策
- 手洗いの徹底:ノロウイルスにはアルコール消毒の効果が限定的なため、流水と石けんによる丁寧な手洗いが基本
- 嘔吐物の処理:使い捨て手袋とエプロンを着用し、嘔吐物をペーパータオルで覆ってから次亜塩素酸ナトリウムで消毒。処理後の手袋は裏返して捨てる
- リネンの管理:汚染された衣類や寝具はビニール袋に入れて他と分け、80度以上の熱湯で消毒してから洗濯
嘔吐はいつ起きるかわからないので、手袋・エプロン・凝固剤などが一式そろった嘔吐物処理キットを各フロアに置いている施設もあります。
疥癬対策
- 早期発見:かゆみの訴えや皮膚の異常を見逃さない
- 隔離と治療:角化型疥癬の場合は個室隔離が必要。医師の指示のもと、塗り薬や飲み薬で治療
- 寝具の管理:感染者のシーツや衣類は50度以上のお湯で10分以上洗浄

感染症マニュアルに盛り込むべき内容
介護施設には感染症マニュアルの整備が義務づけられています。実効性のあるマニュアルに仕上げるために、以下の項目を盛り込みましょう。
必須項目リスト
- 緊急対応フローチャート:A4サイズ1枚にまとめ、各フロアに掲示できるもの
- 連絡先一覧:保健所・嘱託医・看護師当番の連絡先(最新情報に更新)
- 夜勤帯の対応手順:少人数体制での対応方法を明記
- 感染症別の対応マニュアル:インフルエンザ、ノロウイルスなど主要感染症ごとの対応手順
- PPE着脱手順:イラスト付きで視覚的にわかりやすく
- 嘔吐物・排泄物の処理手順:写真やイラストで手順を明示
マニュアルは作って終わりではありません。年に1回以上の見直しと、全職員への研修を必ず行いましょう。特に連絡先情報は定期的に最新化してください。
感染管理委員会の役割
介護施設には感染管理委員会の設置が義務づけられており、以下の業務を担います。
- 感染対策に関する方針の決定
- マニュアルの作成・見直し
- 感染発生事例の検証と改善策の立案
- 職員研修の企画・実施
- 消毒剤や防護具などの備品管理
委員会は管理者、看護師、介護職員など多職種で構成し、月1回以上の開催が望ましいとされています。
感染者が発生した場合の対応手順
1. 発見・報告
感染が疑われる症状(発熱、嘔吐、下痢、発疹など)を発見したら、ただちに看護師と管理者に報告します。
2. 隔離・対応
感染者または疑い者を個室に移動させ、担当職員を限定します。PPEを着用して対応にあたります。
3. 行政への報告
感染症の種類や規模によっては保健所への報告が必要です。施設内で同時に複数名の感染が確認された場合は速やかに報告します。
4. 感染拡大の防止
接触者のリストアップ、共用部分の消毒強化、面会の制限など、拡大防止策を講じます。
5. 終息確認と振り返り
新たな発症者が一定期間出ないことを確認し、終息を宣言します。その後、対応の振り返りを行い、改善点をマニュアルに反映させます。
介護施設の感染症対策に関するQ&A
Q. 職員が感染した場合はどうする?
A. 感染した職員は医師の指示に従い自宅療養とし、症状が消失してから一定期間が経過するまで出勤を控えてもらいます。代替のシフトを組む体制を事前に整えておくことが重要です。
Q. 面会者からの感染を防ぐには?
A. 面会時のマスク着用、手指消毒、体調チェックの実施が基本です。感染症の流行期には面会の時間制限や人数制限を設けることも検討してください。
Q. 感染症研修はどのくらいの頻度で行うべき?
A. 年に2回以上の実施が推奨されています。冬場の流行シーズン前(10月頃)に集中的な研修を行い、手洗いや防護具の着脱手順を実践的に確認するのが効果的です。
感染症対策で用意しておくべき備品リスト
感染症の発生に備えて、以下の備品を常時ストックしておきましょう。
個人防護具(PPE)
- 使い捨て手袋(ラテックス・ニトリル)
- サージカルマスク
- N95マスク(結核など空気感染対策用)
- 使い捨てエプロン・ガウン
- フェイスシールド・ゴーグル
マスクは日常的に消費量が多いので、箱入りのまとめ買いで在庫を切らさないようにしている施設もあります。
消毒用品
- アルコール消毒液(濃度70〜80%が適切)
- 次亜塩素酸ナトリウム(ノロウイルス対策用・濃度0.02〜0.1%に希釈して使用)
- 液体石けん(ポンプ式が衛生的)
- ペーパータオル
その他
- 嘔吐物処理セット(凝固剤、ビニール袋、新聞紙)
- 体温計(非接触型が望ましい)
- 隔離用の表示物(ドア掲示用)
備品は最低2週間分のストックを確保しておくことが推奨されています。定期的に在庫を確認し、使用期限切れのものは速やかに入れ替えましょう。
職員の健康管理と感染予防
利用者を感染症から守るためには、職員自身の健康管理も重要です。
出勤前の体調チェック
発熱、咳、下痢、嘔吐などの症状がある場合は無理に出勤せず、管理者に連絡して指示を仰ぎましょう。「人手が足りないから」と体調不良のまま出勤することが、かえって感染拡大を招くことになります。
出勤前の検温を習慣にするなら、自宅にも体温計を1本置いておくと手軽です。額にかざすだけで測れる非接触タイプを使っている人もいます。
予防接種の推奨
インフルエンザワクチンは、利用者と接する介護職員こそ積極的に接種することが望ましいです。施設として接種費用を補助している事業所も増えています。
まとめ|日頃の備えが施設と利用者を守る
介護施設の感染症対策は、標準予防策の日常的な実践と、感染症別の具体的な対応手順の整備が柱となります。手洗い・PPEの使用・環境消毒・換気といった基本を全職員が徹底することが、感染拡大を防ぐ最大の武器です。
マニュアルは実用的でわかりやすいものを作成し、年に1回以上は見直しと研修を実施しましょう。感染症はいつ発生するかわかりません。日頃の備えこそが、利用者と職員の安全を守る力になります。
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