年々厳しくなる日本の夏の暑さ。介護施設で暮らす高齢者にとって、熱中症は命に関わる深刻なリスクだ。高齢者は体温調節機能が低下しており、暑さを感じにくいため、本人が「大丈夫」と言っていても油断はできない。
この記事では、介護現場で夏場に実践すべき熱中症予防と暑さ対策のポイントを、環境管理・水分補給・観察のコツ・緊急時の対応まで幅広く解説していく。

なぜ高齢者は熱中症になりやすいのか
高齢者が熱中症のリスクが高い理由を理解しておくことは、予防の第一歩になる。
- 体温調節機能の低下:加齢により発汗量が減り、体内の熱を放出しにくくなる
- 暑さ・のどの渇きを感じにくい:温度感覚が鈍くなり、水分補給のタイミングを逃しやすい
- 体内の水分量が少ない:高齢者は若い人に比べて体内の水分保持量が少ない
- 持病の影響:心臓病や腎臓病がある方は、体温調節に負荷がかかりやすい
- 服薬の影響:利尿薬や抗コリン薬など、脱水を促進する薬を服用している方もいる
救急搬送されるケースの約6割が高齢者というデータもあり、熱中症搬送者の約半数は室内で発症している。エアコンが付いていても設定温度が高すぎたり、風通しが悪かったりすると、室内でも熱中症は起こる。
介護施設でできる夏の暑さ対策
1. 室温・湿度の管理を徹底する
介護施設の居室・共用部の室温は25~28℃を目安に管理することが推奨されている。湿度は50~60%が理想的。WBGT(暑さ指数)計を活用して、室内環境を数値で管理するとより安全だ。
- 各居室・共用部に温湿度計を設置する
- エアコンの設定温度と実際の室温に差がないか確認する
- 利用者さんが「寒い」と訴える場合は、薄手のブランケットで個別対応する
- 窓にすだれやカーテンを使い、直射日光を遮る
温湿度計は、熱中症の注意レベルが表示されるタイプを選ぶと、スタッフ全員がひと目で状況を判断しやすい。
2. こまめな水分補給を促す
高齢者は自分からは水分を取らないことが多いため、介護職員が定期的に声をかけて水分補給を促すことが重要。
- 起床時・食事前後・入浴前後・就寝前など、1日のスケジュールに水分補給のタイミングを組み込む
- 1日あたり1,000~1,500mlを目安に水分を摂取してもらう
- 水やお茶が苦手な方には、ゼリー飲料やフルーツ、味噌汁なども活用する
- 水分摂取量を記録し、不足がないかチェックする
飲み物が進まない方向けに、高齢者向けの水分補給ゼリーをいくつかの味でそろえておくと、好みに合わせて選んでもらいやすい。

3. 服装の工夫
夏場の衣類は通気性・吸湿性の高い素材を選ぶ。綿や麻などの天然素材が肌に優しく、吸汗速乾性のある機能性インナーも効果的だ。
- ゆったりとした形で、風が通りやすい服を選ぶ
- こまめに着替えを行い、汗をかいたまま放置しない
- 外出時は帽子や日傘を使用する
4. 食事・栄養面の配慮
夏バテで食欲が落ちる利用者さんには、食事の工夫も重要になる。
- 冷たい麺類やそうめんなど、食べやすいメニューを取り入れる
- 塩分やミネラルを含む味噌汁・スープ類を毎食提供する
- 少量ずつ頻回に食事を提供する「分割食」も検討する
- スイカやきゅうりなど水分含有量の多い食材を活用する
熱中症の初期症状と早期発見のポイント
熱中症は早期発見・早期対応が命を守る。介護職員は以下の症状に注意して観察を行いたい。
軽度(I度)の症状
- めまい・立ちくらみ
- 筋肉のこわばり・痛み(こむら返り)
- 大量の発汗
- 気分が悪い
中等度(II度)の症状
- 頭痛・吐き気・嘔吐
- 倦怠感・脱力感
- 集中力の低下
重度(III度)の症状
- 意識障害・けいれん
- 体温が40℃以上に上昇
- 発汗が止まる(重症のサイン)
高齢者は症状がはっきり出ないまま急速に重症化することがある。「いつもより元気がない」「ぼんやりしている」「反応が鈍い」といった変化を見逃さないことが重要。II度以上の症状が疑われる場合は、ためらわずに医療機関への連絡・救急搬送を行うこと。
熱中症が疑われる場合の緊急対応
利用者さんに熱中症の症状が見られた場合は、以下の手順で応急処置を行う。
- 涼しい場所に移動させる(エアコンの効いた部屋・日陰)
- 衣類を緩めて風通しを良くする
- 首の後ろ・脇の下・太ももの付け根を冷やす(太い血管がある部分)
- 意識がはっきりしていれば、少しずつ水分を摂取させる(経口補水液が望ましい)
- バイタルサインを測定し、記録する
- 看護師・医師に報告し、指示を仰ぐ
冷やす処置をすぐに始められるよう、叩くだけで冷たくなる瞬間冷却パックを救急箱に入れておくと慌てずに済む。

介護職員自身の暑さ対策も忘れずに
利用者さんのケアに集中するあまり、介護職員自身の体調管理がおろそかになりがちだ。記事執筆時点では、厚生労働省の指針に基づき職場の熱中症対策が義務化されている。
- こまめな水分補給(ペットボトルを常に携帯する)
- 通気性の良いユニフォームや冷感インナーを着用する
- 入浴介助時は特に高温多湿になるため、短時間で交代制にする
- 休憩時間をしっかり確保し、涼しい場所で体を休める
- 体調不良を感じたらすぐに上司に報告する
ユニフォームの下に着る冷感インナーは、汗をかいてもベタつきにくい素材のものを選ぶと、介助で動き回る日も過ごしやすい。
よくある質問(Q&A)
Q. エアコンを嫌がる利用者さんへの対応はどうすればいいですか?
高齢者の中にはエアコンの冷風を嫌がる方もいる。その場合は、風が直接当たらないように風向きを調整したり、設定温度を28℃程度にして風量を弱めにする方法が効果的。扇風機で空気を循環させて、体感温度を下げる工夫もある。
Q. 水分を飲みたがらない利用者さんにはどうしたらいいですか?
お茶やジュースだけでなく、ゼリー・プリン・スイカなど食品からの水分摂取も有効。味噌汁やスープも立派な水分補給になる。好みの飲み物や食べ物を事前に把握しておくとスムーズだ。
Q. 夜間も熱中症に注意が必要ですか?
注意が必要だ。夜間は気温が下がっても室温が高いままのことがある。就寝中にエアコンを切ってしまうと室温が上昇し、夜間に脱水や熱中症を起こすケースもある。エアコンのタイマー設定や、就寝前の水分補給を習慣化することが大切だ。
介護施設で実践できる熱中症予防チェックリスト
日々の業務に取り入れやすい、熱中症予防のチェックリストを紹介する。毎日の業務開始時に確認する習慣をつけると、予防の精度が格段に上がる。
- 各居室の室温と湿度を記録したか
- エアコンが正常に稼働しているか確認したか
- 利用者さん一人ひとりの水分摂取量を把握しているか
- 経口補水液や塩分タブレットの在庫はあるか
- 外出レクの場合、日差しの強い時間帯を避けているか
- スタッフ自身の水分補給は十分か
- WBGT計の数値を確認したか
塩分タブレットは個包装のものを選ぶと、休憩室やスタッフのポケットに入れておきやすく、在庫管理もしやすい。
訪問介護における夏場の暑さ対策
施設介護だけでなく、訪問介護にも夏ならではのリスクがある。利用者さんの自宅はエアコンがない、または使っていないというケースも少なくない。
- 訪問時に室温をチェックし、エアコンや扇風機の使用を促す
- 水分が手の届く場所に置いてあるか確認する
- 窓を開けて換気する際は、直射日光を遮るカーテンの使用を勧める
- 利用者さんの服装が季節に合っているか確認する(冬用の厚い服を着ている方もいる)
- ケアマネジャーと連携し、必要に応じてエアコンの設置をご家族に提案する

夏のレクリエーションの工夫
夏場のレクリエーションは、暑さを避けながら楽しめる工夫が必要だ。
- 涼しい室内レク:風船バレー、手遊び歌、塗り絵、折り紙など
- 水を使ったレク:足湯ならぬ「足水」、水風船遊び、金魚すくい風ゲーム
- 夏を感じる食レク:かき氷作り、スイカの試食会、夏野菜の調理レク
- 外出は早朝か夕方:日中の外出は避け、涼しい時間帯に散歩やドライブを楽しむ
季節感を楽しみながら安全に過ごすのが、介護現場の夏レクのポイント。利用者さんが「夏も楽しいな」と感じられるような工夫を取り入れていこう。室内でできる風船バレーは、割れにくい大きめの風船を用意しておくと安心して楽しめる。
熱中症予防に役立つ施設の備品リスト
夏に備えて、施設に常備しておきたい備品を確認しておこう。
- 経口補水液(OS-1等):通常の水やお茶よりも電解質の吸収が速く、脱水時の応急処置に有効
- 塩分タブレット・塩飴:利用者さんだけでなくスタッフの塩分補給にも
- 瞬間冷却パック:水を使わずに冷やせるため、緊急時にすぐ使える
- WBGT計(暑さ指数計):室内環境の危険度を数値で把握できる
- 冷感タオル:水に濡らして首に巻くだけで体感温度が下がる
- ポータブル扇風機:送迎車内や屋外レク時に活躍する
これらの備品は夏が来る前に在庫を確認し、不足分を早めに発注しておくことが大切。暑くなってからでは品切れになることもあるため、春のうちに準備を始めよう。冷感タオルのように利用者さんとスタッフの両方で使えるものは、多めにそろえておくと回しやすい。
利用者さんの既往歴と服薬情報を把握する
利尿薬や降圧薬を服用している利用者さんは、脱水リスクが特に高い。また、心臓病や腎臓病の既往がある方は体温調節に負荷がかかりやすいため、一人ひとりの健康状態に合わせた個別の対応が求められる。夏が本格化する前に、利用者さんごとのリスク評価を行い、チーム全体で共有しておこう。
まとめ
介護施設における夏の熱中症予防は、室温管理・水分補給・こまめな観察の3つが柱になる。高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくく、自分から「暑い」「飲みたい」と訴えないことも多い。だからこそ、介護職員の「気づき」と「先回りの対応」が利用者さんの命を守る。
万が一の緊急時に備えて、応急処置の手順を全スタッフで共有しておくことも忘れずに。利用者さんも介護職員自身も、安全に夏を乗り越えるための対策を万全にしていこう。
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参考リンク:高齢者の熱中症の予防・早期発見・緊急対応ポイント(ドクターメイト)
参考リンク:介護の熱中症対策(介護のコミミ)
参考リンク:介護士向け夏の暑さ対策(メディケアキャリア)



